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東京高等裁判所 平成10年(行ケ)101号 判決 1999年4月22日

大阪府茨木市宿久庄二丁目7番6号

原告

丹平製薬株式会社

代表者代表取締役

森輝彦

訴訟代理人弁護士

小野一郎

仲井敏治

稲葉宏己

同弁理士

辻本一義

福岡県福岡市博多区光丘町二丁目2番42号

被告

白石忠生

訴訟代理人弁護士

松原暁

小林明隆

同弁理士

酒井一

主文

特許庁が平成9年審判第4808号事件について平成10年1月22日にした審決を取り消す。

訴訟費用は被告の負担とする。

事実

第1  原告が求める裁判

主文と同旨の判決

第2  原告の主張

1  特許庁における手続の経緯

被告は、発明の名称を「銅クロロフイリンナトリウム配合入浴剤」とする特許第2015857号発明(以下「本件発明」という。)の特許権者である。なお、本件発明は、昭和61年11月21日に特許出願(昭和61年特許願第279323号)され、平成7年4月12日の出願公告(平成7年特許出願公告第33327号)を経て、平成8年2月19日に特許権設定の登録がされたものである。

原告は、平成9年3月27日に本件発明の特許を無効にすることについて審判を請求した。特許庁は、これを平9年審判第4808号として審理した結果、平成10年1月22日に「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決をし、同年3月23日にその謄本を原告に送達した。

2  本件発明の特許請求の範囲

銅クロロフイリンナトリウムを含有するとともに、浴槽等への付着防止剤として、アニオン界面活性剤と、両性界面活性剤のうち、少なくともいずれかを含有することを特徴とする銅クロロフイリンナトリウム配合入浴剤。

3  審決の理由

別紙審決書の理由写しのとおり(なお、審判手続における甲第1号証の特許公報を以下「引用例1」、甲第2号証の特許公報を以下「引用例2」、甲第3号証の特許公報を以下「引用例3」、甲第4号証の特許公報を以下「引用例4」、甲第5号証の特許公報を以下「引用例5」、甲第9号証の2の特許公報を以下「引用例9」という。)

4  審決の取消事由

審決は、各引用例記載の技術内容を誤認した結果、本件発明の新規性あるいは進歩性を肯定したものであって、違法であるから、取り消されるべきである。

(1)原告主張の特許無効理由(1)(以下「無効理由1」という。)の判断の誤り

審決は、無効理由1について、本件発明は、銅クロロフイリンナトリウムと、「浴槽等への付着防止剤として、アニオン界面活性剤と、両性界面活性剤のうち、少なくともいずれか」とを組み合わせること(以下「本件発明の要件である組合せ」という。)を不可欠の要件とするところ、引用例2ないし4には、本件発明の要件である組合せは記載も示唆もない旨認定している。

しかしながら、引用例2ないし4には、本件発明の要件である組合せが記載されているから、審決の上記認定は明らかに誤りである。もっとも、引用例1ないし5には、アニオン界面活性剤あるいは両性界面活性剤が「浴槽等への付着防止剤」であることは記載されていないが、界面活性剤が汚れの付着を防止する作用を有することは、本件発明の特許出願前に周知の事項にすぎない。

この点について、被告は、界面活性剤が水溶性の物質である銅クロロフイリンナトリウムの浴槽等への付着防止の作用を有することは本件発明の特許出願前には知られていなかった旨主張する。しかしながら、銅クロロフイリンナトリウムは、水溶性ではあるが、親油性の化学構造を有し、不溶性の物質である「汚れ」と同様の挙動を示すものであるから、被告の上記主張は失当である。

したがって、本件発明は、引用例2ないし4記載の発明と同一の技術的思想であり、少なくとも、これらの発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、無効理由1を退けた審決の判断は誤りである。

この点について、審決は、本件発明が奏する作用効果に予測性がないこと、引用例2ないし4には銅クロロフイリンナトリウムについての記載がないことを説示している。

しかしながら、銅クロロフイリンナトリウム及び界面活性剤がもたらす作用は当業者が熟知している事項にすぎないから、本件発明の要件である組合せによって得られる作用効果は、当業者ならば当然に予測しえた範囲内のことである。また、引用例2ないし4には「クロロフイル系色素」が記載されているところ、銅クロロフイリンナトリウムはクロロフイル系色素の代表的なものであって、これを入浴剤として使用することは古くから行われているし、そもそも、本件明細書自体が、「銅クロロフイリンナトリウム」と「クロロフイル」とを同義の用語として使用しているのであるから、審決の上記説示は失当である。

(2)原告主張の特許無効理由(2)(以下「無効理由2」という。)の判断の誤り

審決は、引用例9記載の発明の要件である「ポリアルキレングライコール又は脂肪酸モノグリセライド」に換えて界面活性剤を使用することは当業者が容易に想到しえた事項ではない旨判断している。

しかしながら、汚垢が浴槽等に付着することを防止するため、入浴剤に界面活性剤を配合することは、例えば、引用例1あるいは5に記載されているように、本件発明の特許出願より相当以前から知られていた技術にすぎない。そして、「ポリアルキレングライコール又は脂肪酸モノグリセライド」は非イオン界面活性剤の範疇に属する界面活性剤であるから、これをアニオン界面活性剤あるいは両性界面活性剤に置き換えることには何らの困難もありえない。したがって、無効理由2に係る審決の上記判断は、明らかに誤りである。

第3  被告の主張

原告の主張1ないし3は認めるが、4(審決の取消事由)は争う。審決の認定判断は正当であって、これを取り消すべき理由はない。

1  無効理由1の判断について

原告は、本件発明は引用例2ないし4記載の発明と同一の技術的思想であり、少なくとも、これらの発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである旨主張する。

しかしながら、引用例2ないし4には、一方において、入浴剤に配合する色素としてクロロフイル系色素あるいはクロロフイルが他の色素とともに列挙され、他方においそ、任意配合成分としてアニオン界面活性剤あるいは両性界海活牲剤が他の成分とともに列挙されているにすぎない。したがって、これらの引用例には、本件発明の要件である組合せが不可欠の構成として記載されているとはいえない。

そして、本件発明の要件である組合せによって得られる作用効果は、いうまでもなく引用例2ないし4に記載されていないし、そもそも、引用例2ないし4には「銅クロロフイリンナトリウム」についての記載が存在しないのであるから、本件発明の新規性及び進歩性を肯定した審決の判断に誤りはない。

なお、原告は、界面活性剤が汚れの付着を防止する作用を有することは周知の事項である旨主張する。

しかしながら、界面活性剤が、水溶性の物質である銅クロロフイリンナトリウムの浴槽等への付着防止の作用を有することは、本件発明の特許出願前には知られていなかったから、原告の上記主張は失当である。

2  無効理由2の判断について

原告は、入浴剤に界面活性剤を配合することは本件発明の特許出願の相当以前から知られていた技術であるから、無効理由2に関する審決の判断は誤りである旨判断している。

しかしながら、引用例9記載の発明の要件である「ポリアルキレングライコール又は脂肪酸モノグリセライド」は、「入浴の際皮膚面の汚れや体臭を除去すると同時に皮膚面を殺菌し湿疹等を防ぎ且浴後身体に適度の脂肪と芳香を残し然もサッパリした快感を与え」(1頁左欄23行ないし26行)ることを目的として配合されているものである。したがって、これを「浴槽等への付着防止剤」に置き換える動機付けは生じえないから、原告の上記主張も失当である。

理由

第1  原告の主張1(特許庁における手続の経緯)、2(本件発明の特許請求の範囲)及び3(審決の理由)は、被告も認めるところである。

第2  甲第2号証(特許公報)によれば、本件発明の概要は次のとおりと認められる。

1  技術的課題(目的)

本件発明は、銅クロロフイリンナトリウムを配合した入浴剤に関するものである(1欄9行、10行)。

葉緑素を含有する銅クロロフイリンナトリウムは、瘡傷治療作用等を有し、また、美麗な青緑色を呈するので、化粧品等に広く使用されているが、入浴剤としてはほとんど用いられていなかった(1欄14行ないし2欄8行)。これは、銅クロロフイリンナトリウムをそのまま入浴剤として用いると、クロロフイルが浴槽に付着して美感を損い、洗い落としも困難なばかりでなく、残り湯を洗濯に用いることができないことが理由である(2欄11行ないし15行)。

本件発明の目的は、クロロフイリンナトリウムの浴槽への付着を完全に防止し、かつ、銅クロロフイリンナトリウムの薬効及び着色効果を有効に利用できる入浴剤を創案することである(3欄1行ないし4行)。

2  構成

上記の目的を達成するために、本件発明は、その特許請求の範囲記載の構成を採用したものである(1頁2行ないし6行)。

3  作用効果

本件発明によれば、

a  銅クロロフイリンナトリウムを乳化することによって、浴槽へのクロロフイルの付着を防止し、美麗な浴湯色を楽しみ、残り湯を洗濯に用いることができる

b  葉緑素が有する瘡傷治療作用等を、そのまま保持できるとの作用効果を得ることが可能である(3欄47行ないし4欄10行)。

第3  そこで、原告主張の審決取消事由の当否について検討するに、原告は、多くの引用例を援用して本件発明に新規性ないし進歩性が存在しないことを主張するが、引用例9が最も的確であると考えられるので、まずこの点(無効理由2)からみることにする。

1  甲第12号証の2によれば、引用例9記載の発明は「溶剤の製法」に関するものであって、引用例9には、次のような記載があることが認められる。

a  「特許請求の範囲 ポリアルキレングライコール又は脂肪酸モノグリセライドを主成分として之に2-2’-チオビス(4・6-ジクロロフェノール)を溶解し更に炭酸曹達の如き水の軟化剤及クロロフイリン塩を配合する事を特徴とする溶剤の製法。」(2頁右欄11行ないし16行)

b  「その目的とする処は入浴の際皮膚面の汚れや体臭を除去すると同時に皮膚面を殺菌し湿疹等を防ぎ且浴後身体に適度の脂肪と芳香を残し然もサッパリした快感を与えようとするものである。」(1頁左欄23行ないし27行)

c  「本発明を具体的に説明すると、ポリアルキレングライコール10~20部に2-2’-チオビス(4・6-ジクロロフェノール)1~5部を加えて加温しつゝ溶解し、別に調整した銅クロロフイリン・ナトリウム1~5部及炭酸曹達1~5部を40部の水にとかした溶液を混ぜ合せ香料を適量加える事により溶剤を製造する。」(1頁左欄28行ないし34行)

d  「ポリアルキレングライコールは油状の物質であるが、水によく溶解し、皮膚に残ってもベタつかずサッパリしていて然も皮膚を滑らかにする効果を有する許りでなく、2-2’-チオビス(4・6-ジクロロフェノール)を溶解する。(中略)脂肪酸モノグリセライドもポリアルキレングライコールと同じく水とよく混合して2-2’-チオビス(4・6-ジクロロフェノール)を溶解しポリアルキレングライコールと同様に上記の様な効果を有する。」(1頁左欄35行ないし右欄10行)

e  「2-2’-チオビス(4・6-ジクロロフェノール)はそのまゝでは水に殆んど不溶であるが難点であるが、本発明の如くポリアルキレングライコールに溶解し、之を微アルカリ性の水と混合すれば容易に安定な溶液とする事が出来る。」(1頁右欄28行ないし32行)

f  「クロロフイル塩は体臭の除去に独特の効果があると共に肌を整える作用も著しい事は既に多くの報告があり化粧品に配合する新薬品として注目されている。」(1頁右欄33行ないし2頁左欄1行)

g  「浴用に用いる場合約200lの湯量に対し本発明方法でつくった製品10c.c.を加える時は各成分の含有量は下記の通りとなる。

ポリアルキレングライコール 10 PPm

2-2’-チオビス(4・6-ジクロロフェノール) 1~5

銅クロロフイリンナトリウム 1~5

炭酸曹達 1~5」

(2頁左欄7行ないし15行)

h  「実施例 ポリアルキレングライコール2kgを加温しつゝ2-2’-チオビス(4・6-ジクロロフェノール)200gを溶解したものに銅クロロフイリンナトリウム200gNa2Co3200gを8lの水に溶解したものを混合撹拌溶解し、香料(ラヴェンダー)少量を加えて濾過し製品10lを得る。」(2頁右欄4行ないし10行)

以上によれば、引用例9には、銅クロロフイリンナトリウムと「ポリアルキレングライコール又は脂肪酸モノグリセライド」とを組み合わせて入浴用の溶剤を製造する方法が明確に記載されているのである。

2  上記のような引用例9記載の技術内容について、審決は、引用例9「に記載された発明におけるポリアルキレングライコール又は脂肪酸モノグリセライドの添加は、浴後皮膚上に適当な脂肪分として残され、皮膚を滑らかにすることを目的としているものと把握され」、「界面活性剤の本来的性質・機能を期待してのものとも、(中略)浴槽壁や洗桶、風呂釜などに対する汚垢の付着防止、浴液の腐敗および臭気の発生の防止などを図るためのものとも認められない。」としたうえ、引用例9「記載の発明におけるポリアルキレングライコール又は脂肪酸モノグリセライドにかえて、(中略)界面活性剤を使用することは当業者が容易に想到できるとすることはできない。」と説示している。

この点について、原告は、汚垢が浴槽等に付着することを防止するため入浴剤に界面活性剤を配合することは本件発明の特許出願の相当以前から知られていた技術にすぎない旨主張するので検討するに、

甲第9号証によれば、石井頼三ほか編「商品大辞典」(株式会社東洋経済新報社昭和44年3月10日発行)の「界面活性剤」の項には、

i  「界面活性剤とは水または油に溶けて界面エネルギーを著しく低下させ、(中略)これらは洗浄の目的だけでなく、乳化(水に溶けない液体を水に細かく牛乳状に分散させる)、湿潤(液体が固体をよくぬらす)、浸透(ある物質の溶液を他の固体の表面または組織の内部にしみ込ます)など広い方面に利用され」(613頁左欄1行ないし下から8行)

と記載され、その例として、陰イオン活性剤、陽イオン活性剤、非イオン活性剤、両性活性剤が挙げられていること(613頁右欄ないし617頁左欄)が認められる。

また、甲第10号証によれば、昭和50年特許出願公開第111227号公報には、

j 「特許請求の範面 (1)無機塩類とオキシ脂肪酸アミドオキシアルキレンエーテルと金属セッケンを含む浴用添加組成物」(1頁左下欄4行ないし7行)

k 「その目的は、入浴効果を高めると共に、浴槽壁や洗桶、風呂釜などに対する汚垢の付着防止(中略)などを図り」(1頁左下欄14行ないし17行)

と記載されていることが認められる。

さらに、甲第11号証によれば、藤本武彦著「全訂版新・界面活性剤入門」(三洋化成工業株式会社昭和56年10月1日発行)には、

l 「洗浄という現象を界面活性剤(洗浄剤)の作用の面からみると、浸透作用、乳化分散作用、可溶化作用あるいは気泡作用などの総合された複雑な作用である。(中略)これら諸作用の効果もそれぞれよごれの成分、そのよごれのついている物体の種類、付着面の状態などによっても大きく影響される。(中略)よごれも油性のよごれ(あぶらよごれ)、無機性のよごれ(ほこり)、あるいはそれらの混合されたよごれ(ふつうのよごれ)などといろいろ種類があって簡単ではない。」(218頁17行ないし24行)

m 「繊維に付着しているよごれが洗い落とされる過程は次のように考えることができる。(中略)よごれが繊維からはずれると、次には洗浄剤の乳化分散作用でよごれは溶液中に乳化分散されて再び繊維に付着してよごすということはなくなる(再汚染防止作用)。」(219頁1行ないし6行)

と記載されていることが認められる。

これらの記載によれば、界面活性剤が汚垢を乳化して溶液中に分散し、再び固体表面に付着することを防止する作用を行うことは、本件発明の特許出願前に技術常識となっていたことに疑いの余地はない。

3  そして、引用例9記載の発明の要件とされている「ポリアルキレングライコール又は脂肪酸モノグリセライド」が、非イオン界面活性剤の範疇に属する界面活性剤であることは、被告も争わないところであるから(現に、引用例9の前記d及びeの各記載は、ポリアルキレングライコールあるいは脂肪酸モノグリセライドが、水に殆んど不溶の物質を乳化分散する作用を行うことを明らかにしたものと解される。)、これをアニオン界面活性剤あるいは両性界面活性剤に置き換えることは、当業者ならば何の困難もなしに想到しえた事項と解するのが相当である。

したがって、引用例9「に記載された発明におけるポリアルキレングライコール又は脂肪酸モノグリセライドの添加は、浴後皮膚上に適当な脂肪分として残され、皮膚を滑らかにすることを目的としているものと把握され」という審決の説示は、引用例9の記載に副うものであって、誤りということはできないが、それに続く「界面活性剤の本来的性質・機能を期待してのものとも、(中略)浴槽壁や洗桶、風呂釜などに対する汚垢の付着防止、浴液の腐敗および臭気の発生の防止などを図るためのものとも認められない。」という審決の説示は、本件発明の特許出願当時の技術常識を殊更に無視するものといわざるをえず、その結果、引用例9「記載の発明におけるポリアルキレングライコール又は脂肪酸モノグリセライドにかえて、(中略)界面活性剤を使用することは当業者が容易に想到できるとすることはできない。」とした審決の判断は、本件発明の特許出願当時の当業者の技術常識からすれば、明らかに誤りである。

4  以上のとおり、本件発明は、引用例9記載の発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものと認められるから、本件発明の特許を無効にすることについてされた原告の審判請求を退けた審決は、誤りであって、取消しを免れない。

第4  よって、審決の違法を理由にその取消しを求める原告の本訴請求は、その余の点について検討するまでもなく、正当であるから、これを認容することとし、訴訟費用の負担について行政事件訴訟法7条、民事訴訟法61条の各規定を適用して、主文のとおり判決する。

(口頭弁論終結日 平成11年4月6日)

(裁判長裁判官 清永利亮 裁判官 春日民雄 裁判官 宍戸充)

3.無効審判請求人(以下、「請求人」という。)の主張及び提出した証拠方法

これに対して、請求人は、「特許第2015857号を無効とし、審判請求費用は被請求人の負担とする」とする趣旨の無効審判を請求し、

(1)本件特許発明は、甲第2号証乃至甲第4号証に記載された発明と同一であるから特許法第29条第1項第3号に規定する発明に該当し、特許を受けることができないものである、あるいは同号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許は同法第123条第1項第2号の規定により無効とすべきである、

(2)本件特許発明は、甲第1号証、甲第5号証乃至甲第8号証及び甲第9号証の2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明することができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許は同法第123条第1項第2号の規定により無効とすべきである、

(3)本件特許発明は、甲第9号証として提出した特願昭60-187936号の願書に添付された明細書に記載された発明と同一であり、特許法第39条第1項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許は同法第123条第1項第2号の規定により無効とすべきである、

(4)本件特許発明は特許法第29条第1項柱書に規定する産業上利用することができる発明に該当しないから、本件特許は同法第123条第1項第3号の規定により無効とすべきである、

(5)本件特許発明は特許法第36条第3項に規定する要件を満たしていないから、本件特許は同法第123条第1項第3号の規定により無効とすべきである、

旨主張し、証拠方法として甲第1号証乃至甲第11号証を提出している。

4.甲号各証の記載事項

甲第1号証[特開昭50-129733号公報]には、「アスコルビン酸、無機還元剤、明礬類を少なくとも1種以上含有することを特徴とする浴用剤。」(特許請求の範囲)に関する発明が記載され、他の浴用原料として、「天然色素(クロロフイル)、界面活性剤(アニオン系、カチオン系、商性、非イオン系)」(第2頁右下欄第4行~第3頁右上欄第4行)等を使用しうることが記載されている。また、発明の目的、効果について、「色素の水道水中に含まれる遊離残留塩素による酸化分解褪色を安定剤を配合することにより解決したものである」(第1頁右下欄第20行~第2頁左上欄第1行)ことが記載されている。

甲第2号証[特開昭51-57835号公報]には、「第一級アミン又は第二級アミンよりなるアミノ基をもつアミノ酸又はその塩を含有することを特徴とする浴剤。」(特許請求の範囲)に関する発明が記載され、上記成分のほか、「陰イオン界面活性剤、非イオン界面活性剤、両性界面活性剤等」(第1頁右下欄第11~19行)を含みうることが記載されている。また、発明の目的について、「浴剤成分である色素が水道水中の遊離残留塩素の影響を受けることなく、使用時色素本来の色を保つ」(第1頁左下欄第7~9行)ためのものと記載されている。そして、浴剤にアミノ酸を添加することによって遊離残留塩素の影響を受けることなく色素本来の色に発色させることのできる色素として、「クロロフィル系色素」(第2頁右下欄第8~20行)が挙げられている。また、実施例2として、ポリオキシエチレン誘導体3.0部、ポリエチレングリコール60002.0部、ポリオキシエチレンソルビタンモノラウレート2.0部、オリーブ油0.1部、プロピレングリコール50.0部、エチルアルコール30.0部、香料3.0部、プロリン3.6部、青色1号(ブリリアントブルーFCF)0.5部、水5.8部を配合してなる組成物が具体的に記載されている。

甲第3号証[特開昭51-86137号公報]には、「硫酸アンモニウム、リン酸アンモニウム、炭酸水素アンモニウム、ホウ酸アンモニウム、炭酸アンモニウム、リン酸水素二アンモニウム、リン酸二水素アンモニウム等の無機窒素化合物の一種又はそれ以上を含有することによって色素の発色を安定化させた浴剤。」(特許請求の範囲)に関する発明が記載され、上記成分のほか、「陰イオン界面活性剤、非イオン界面活性剤、両性界面活性剤等」(第1頁右下欄第16行~第2頁左上欄第4行)を含みうることが記載されている。また、発明の目的について、「浴剤成分である色素が水道水中の遊離残留塩素の影響を受けることなく、使用時色素本来の色を保つ」(第1頁左下欄第11~13行)ためのものと記載されている。そして、浴剤に上記無機窒素化合物を添加することによって遊離残留塩素の影響を受けることなく色素本来の色に発色させることのできる色素として、「クロロフィル系色素」(第3頁左上欄第5~17行)が挙げられている。また、実施例2としてポリオキシエチレン誘導体3.0部、ポリエチレングリコール60002.0部、ポリオキシエチレンソルビタンモノラウレート2.0部、オリーブ油0.1部、プロピレングリコール50.0部、エチルアルコール30.0部、香料3.0部、炭酸アンモニウム3.6部、黄色202-1号(ウラニン)0.5部、水5.8部を配合してなる組成物が具体的に記載されている。

甲第4号証[特開昭54-11223号公報]には、「無機還元剤を少なくとも1種以上含有すると共に、アゾ系、キノリン系、トリフェニルメタン系、インジゴ系又は天然系の色素を主色素とすることを特徴とする浴剤。」(特許請求の範囲)に関する発明が記載され、上記主色素として、「クロロフィル」を使用しうることが記載されている。また、上記成分のほか、界面活性剤(アニオン系、カチオン系、両性、非イオン系)」(第2頁右下欄第6行~第3頁左下欄第2行)等を使用しうることが記載されている。また、発明の目的、効果について、「天然系色素などの非キサンチン素色素は水道水中の残留遊離塩素によって酸化分解され褪色する欠点があり、・・・非キサンチン系色素を浴用剤の色素として使用可能とする技術の開発が強く要望されている。・・・上記要望に応えるべく・・・浴用剤中に無機還元剤(色素安定化剤)を配合することによりアゾ系、キノリン系、トリフェニルメタン系、インジゴ系又は天然系の非キサンチン色素が水道水中の残留遊離塩素によって酸化分解されず、褪色しなくなることを見い出し」(第2頁左上欄第10行~同頁右上欄第4行)たことが記載されている。

また、処方例3として、炭酸水素ナトリウム50.0重量%、酒石酸18.0重量%、ポリエチレングリコール2.0重量%、亜硫酸ナトリウム5.0重量%、アスコルビン酸ナトリウム2.0重量%、香料2.0重量%、インジゴ系色素(青色2号)適量を配合してなる組成物が具体的に記載されている。

甲第5号証[特開昭58-59909号公報〕には、「植物性蛋白分解酵素および8~15重量%の塩化ナトリウムを含有することを特徴とする液体浴剤組成物。」(特許請求の範囲)に関する発明が記載され、また、上記成分のほか、高級アルコールの硫酸エステル塩などの界面活性剤、クロロフィル系色素が用いられうる。」(第2頁右上欄第5~20行)ことが記載されている。また、発明の目的について、「蛋白分解酵素を含有する浴剤組成物は長期間にわたって空気中に保存することができないという欠点があった。本発明はこのような欠点を解決しようとするものであり、・・・植物性蛋白分解酵素を含みしかも長期間にわたって空気中に保存することのできる浴剤組成物を提供する」(第1頁右下欄第13~20行)ためのものと記載されている。

甲第6号証[石井頼三ら編 商品大辞典 第613~617頁 東洋経済新報社 昭和44年3月10日発行]には、界面活性剤の利用について、「乳化・・・、湿潤・・・、浸透・・・など広い方面に利用され」(第613頁左欄下から12行~8行)ることが記載され、また、「陰イオン活性剤」、「両性活性剤」(第613~7頁)の例が挙げられている。

甲第7号証[特開昭50-111227号公報]には、「無機塩類とオキシ脂肪酸アミドポリオキシアルキレンエーテルと金属セッケンを含む浴用添加組成物。」(特許請求の範囲)に関する発明が記載されている。また、発明の目的について、「入浴効果を高めると共に、浴槽壁や洗桶、風呂釜などに対する汚垢の付着防止、・・・などを図」(第1頁左下欄第13~20行)るためのものと記載されている。

甲第8号証[藤本武彦著 全訂版新・界面活性剤入門 第218、219頁 三洋化成工業株式会社 昭和56年10月1日発行]には、界面活性剤の洗浄作用について、「洗浄という現象を界面活性剤(洗浄剤)の作用の面からみると、浸透作用、乳化分散作用、可溶化作用あるいは気泡作用などの総合された複雑な作用である。・・・これら諸作用の効果もそれぞれよごれの成分、そのよごれのついている物体の種類、付着面の状態などによっても大きく影響される」こと、「繊維の洗浄」を例にした洗浄剤の一般的な作用について、「よごれが繊維からはずれると、次には洗浄剤の乳化分散作用でよごれは溶液中に乳化分散されて再び繊維に付着してよごすということはなくなる(再汚染防止作用)。」(第218頁最下行~第219頁第6行)ことが記載されている。

甲第9号証として提出した特願昭60-187936号の願書に添付した明細書には、「銅クロロフィリンナトリウムを含有するとともに、浴槽等への付着防止剤として自己乳化型界面活性剤又はノニオン界面活性剤を含有することを特徴とする銅クロロフィリンナトリウム配合入浴剤。」(特許請求の範囲)に関する発明が、上記自己乳化型界面活性剤として、「自己乳化型モノステアリン酸グリセリン」(第4頁第3、4行)を使用しうることが記載されている。また、発明の目的について、「銅クロロフィリンナトリウムの浴槽への付着を完全に防止でき、かつ銅クロロフィリンナトリウムの各種の薬効及び着色効果を有効に利用できる入浴剤を提供する」(第2頁第17~20行)ためのものと記載されている。

甲第9号証の2[特公昭31-3699号公報]には、「ポリアルキレングライコール又は脂肪酸モノグリセライドを主成分として之に2-2’-チオビス(4・6-ジクロロフェノール)を溶解し更に炭酸曹達の如き水の軟化剤及びクロロフィリン塩を配合する事を特徴とする浴剤の製法。」

(特許請求の範囲)に関する発明が、上記クロロフィリン塩として、「銅クロロフィリン・ナトリウム」(第1頁左欄下から第5~4行)を使用しうることが記載されている。また、発明の目的について、「入浴の際皮膚面の汚れや体臭を除去すると同時に皮膚面を殺菌し湿疹等を防ぎ且浴後身体に適度の脂肪と芳香を残ししかもサッパリした快感を与えようとする」(第1頁左欄下から第13~9行)ためのものと記載されている。また、製造例として、ポリアルキレングライコール10PPm、2-2’-チオピス(4・6-ジクロロフェノール)1~5PPm、銅クロロフィリンナトリウム1~5PPm、炭酸曹達1~5PPmを配合してなる組成物が具体的に記載されている。

甲第9号証の3は、特願昭60-187936号出願に対する拒絶理由通知書の写し、甲第9号証の4は、同出願に対する拒絶査定の写しである。

甲第10号証[社団法人日本化学会編 化学便覧(応用編)第958頁 丸善株式会社 昭和40年10月25日発行]には、食品・発酵工業における着色料として、「銅クロロフイリンナトリウム」(第958頁右欄)を使用しうることが記載されている。

甲第11号証[分析結果報告書]には、ホーロー、ポリプロピレン、FRPからなる疑似浴槽を用いて行われた入浴剤色素(銅クロロフィリンナトリウム)の浴槽壁付着試験の結果が記載されている。

5.対比・判断

そこで請求人の主張する各請求理由について検討する。

(1)請求人の主張する理由(1)について

本件特許発明と前記甲第2号証乃至甲第4号証に記載された発明とを対比すると、本件特許発明は、「銅クロロフィリンナトリウムを含有すること」及び「浴槽等への付着防止剤として、アニオン界面活性剤と、両性界面活性剤のうち、少なくともいずれかを含有すること」という二つの技術的手段を組み合わせることを発明の構成に欠くことができない事項とする入浴剤に係る発明であるのに対し、甲第2号証乃至甲第4号証には、入浴剤に配合する色素として、クロロフィル系色素あるいはクロロフィルが種々の色素とともに列挙されており、また、任意配合成分として、陰イオン性界面活性剤、両性界面活性剤が種々の成分とともに列挙されているものの、前記二つの技術的手段を選択的に組み合わせることについては記載も示唆もなく、甲第2号証乃至甲第4号証に記載された発明は、その点で本件特許発明とはその構成を明らかに異にする。

もっとも、請求人は、入浴剤に色素として銅クロロフィリンナトリウムを使用すること、界面活性剤が、その本来的性質・機能である乳化分散作用や可溶化作用等に基づいて、入浴中に肌から放たれる汚垢を乳化分散し可溶化することにより、浴槽壁や洗桶、風呂釜などに対する汚垢の付着を防止することができることは、当業者の技術常識であるとし、甲第2号証乃至甲第4号証に、具体的にタール系色素、非イオン性界面活性剤を配合してなる浴剤の実施例、処方例が記載されており、しかも上記タール系色素と同様に使用しうる色素としてクロロフィル系色素が挙げられ、また、上記非イオン性界面活性剤と同様に使用しうる界面活性剤としてアニオン界面活性剤あるいは両性界面活性剤が挙げられているところであるので、「浴槽等への付着防止剤として、アニオン界面活性剤と、両性界面活性剤のうち、少なくともいずれかを含有すること」を発明の構成に欠くことができない事項とする本件特許発明と同一の発明が同号証に記載されている旨、また、仮に両発明が相違するとしても、当業者であれば、甲第2号証乃至甲第4号証に記載された浴剤の実施例、処方例中、具体的に記載あるタール系色素に代え、同様に使用しうる色素としてそれととともに挙げられているクロロフィル系色素を使用し、非イオン性界面活性剤に代え、同様に使用しうる界面活性剤としてそれと共に挙げられているアニオン界面活性剤あるいは両性界面活性剤を使用してなる発明を容易に発明することができたものであり、しかも色素、界面活性剤を選択したことによる効果も格別顕著なものとは認められない旨主張する。

しかし、本件特許発明は、前記二つの技術的手段を採用することにより、クロロフィルの浴槽等への付着を効果的に防止でき、かつ銅クロロフィリンナトリウムの各種の薬効及び着色効果を有効に利用できる入浴剤を提供するという、特許明細書に記載のとおりの効果を奏しえたものと認められ、しかも当該効果は、甲第2号証乃至甲第4号証に記載される発明が奏するいずれの効果からも予測しえないものであるので、請求人の主張を認めることはできない。

そればかりか、甲第2号証乃至甲第4号証には、本件特許発明の構成に欠くことができない事項である銅クロロフィリンナトリウムについてなんらの記載もない。

もっとも、請求人は、甲第10号証を提出し、その記載からみて銅クロロフィリンナトリウムはクロロフィル系色素の代表的物質として周知のものであると認められるから、甲第2号証乃至甲第4号証記載の発明のクロロフィル系色素あるいはクロロフィルは本件特許発明の銅クロロフィリンナトリウムに相当する旨主張するが、同号証には、銅クロロフィリンナトリウムが食品の着色に使用されることが記載されているものと認められるにとどまり、また、他に、浴剤の技術分野において使用されるクロロフィル系色素あるいはクロロフィルが銅クロロフィリンナトリウムを意味することを裏付けるに足る証拠は提出されておらず、請求人の主張を認めることはできない。

よって、本件特許発明は、上記甲第2号証乃至甲第4号証に記載された発明と同一である、また、仮に両発明が相違するとしても、同号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明することができたとする、請求人の主張は採用できない。

(2)請求人の主張する理由(2)について

本件特許発明と甲第9号証の2に記載された発明とを対比すると、両者は、銅クロロフィリンナトリウムを含有してなる入浴剤である点で共通するものの、本件特許発明では浴槽等への付着防止剤として、アニオン界面活性剤と、両性界面活性剤のうち、少なくともいずれかを含有すると規定しているのに対し、甲第9号証の2に記載された発明ではポリアルキレングライコール又は脂肪酸モノグリセライドを含有すると規定している点で相違する。

甲第9号証の2に記載された発明におけるポリアルキレングライコール又は脂肪酸モノグリセライドの添加は、浴後皮膚上に適当な皮脂分として残され、皮膚を滑らかにすることを目的としているものと把握され、甲第6号証あるいは甲第8号証に示されるが如き界面活性剤の本来的性質・機能を期待してのものとも、甲第7号証に記載されるような浴槽壁や洗桶、風呂釜などに対する汚垢の付着防止、浴液の腐敗および臭気の発生の防止などを図るためのものとも認められない。また、甲第1号証及び甲第5号証においては、浴剤に配合する任意配合成分として、陰イオン性界面活性剤、両性界面活性剤が、非イオン性界面活性剤と同様に、界面活性剤として浴剤に配合しうる任意成分として記載されているが、その使用目的については全く記載がないのである。そうすると、甲第9号証の2記載の発明におけるポリアルキレングライコール又は脂肪酸モノグリセライドの使用目的に、甲第6号証乃至甲第8号証、甲第1号証、甲第5号証記載の界面活性剤が合致しているものとはいえないのであるから、甲第9号証の2記載の発明におけるポリアルキレングライコール又は脂肪酸モノグリセライドにかえて、甲第6号証乃至甲第8号証、甲第1号証、甲第5号証記載の界面活性剤を使用することを当業者が容易に想到できるとすることはできない。

そして、本件特許発明は、「銅クロロフィリンナトリウムを含有すること」及び「浴槽等への付着防止剤として、アニオン界面活性剤と、両性界面活性剤のうち、少なくともいずれかを含有すること」という二つの技術的手段を選択的に組み合わせることにより、クロロフィルの浴槽等への付着を効果的に防止でき、かつ銅クロロフィリンナトリウムの各種の薬効及び着色効果を有効に利用できる入浴剤を提供するという、特許明細書に記載のとおりの効果を奏しえたものと認められ、しかも当該効果は、甲第1号証、甲第5号証乃至甲第8号証及び甲第9号証の2に記載される発明が奏するいずれの効果からも予測しえないものであるので、請求人の主張を認めることはできない。

よって、本件特許発明は、同号各証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明することができたとする、上記請求人の主張は採用できない。

(3)請求人の主張する理由(3)について

甲第9号証として提出した特願昭60-187936号の願書に添付した明細書に記載された発明は、「自己乳化型界面活性剤又はノニオン界面活性剤を含有すること」を発明の構成に欠くことができない事項とするものであって、本件特許発明の構成に欠くことができない事項である、「アニオン界面活性剤と、両性界面活性剤のうち、少なくともいずれかを含有すること」という技術的手段を備えていない。もっとも、請求人は、上記発明にいう「自己乳化型界面活性剤又はノニオン界面活性剤」は、アニオン界面活性剤や両性界面活性剤と共に入浴剤に配合する界面活性剤としては同効のものとして使用されており、均等のものといえるから両発明は実質的に同一である旨主張する。

しかし、アニオン界面活性剤あるいは両性界面活性剤を使用した浴剤が、銅クロロフィルの浴槽等への付着防止作用において、自己乳化型界面活性剤あるいはノニオン界面活性剤を使用した浴剤と同様の作用を有することを裏付けるに足る何らの証拠も示されていないし、それが当業者の技術常識であるとも認められず、上記請求人の主張は採用できない。

そして、本件特許発明は、当該技術的手段と、「銅クロロフィリンナトリウムを含有すること」という技術的手段とを組み合わせることにより、クロロフィルの浴槽等への付着を効果的に防止でき、かつ銅クロロフィリンナトリウムの各種の薬効及び着色効果を有効に利用できる入浴剤を提供するという顕著な効果を奏するものであり、本件特許発明が甲第9号証として提出した特願昭60-187936号の願書に添付した明細書に記載された発明であるということはできない。

(4)請求人の主張する理由(4)について

請求人は、甲第11号証を提示の上、疑似浴槽としてポリプロピレンを使うと着色が「+:痕跡程度に認められる」ことから、アニオン系界面活性剤を入浴剤に配合した場合に、クロロフィルの浴槽への付着は完全には防止できず、本件特許発明は、「かかるクロロフィルの浴槽への付着を完全に防止できる入浴剤を提供する」という特許明細書記載の目的を達成することができないので、特許法第29条第1項柱書にいう産業上利用することができる発明に該当しない旨主張している。

しかしながら、甲第11号証に記載される表-1.判定結果からみて、本件特許発明に係るサンプル1が、いずれの疑似浴槽を用いた場合においても、銅クロロフィリンナトリウムを単独で浴槽中に入れたサンプル2と比べて、クロロフィルの浴槽への付着をより効果的に防いでいることは明らかであって、たしかにクロロフィルの浴槽への付着を完全に防止することができない場合があるとしても、その付着の程度が本件特許発明を入浴剤として使用しえないほどのものと認めることはできず、請求人の主張は採用することができない。

(5)請求人の主張する理由(5)について

請求人は銅クロロフィリンナトリウムの配合割合に対してアニオン界面活性剤等の割合を、本件特許の特許請求の範囲における「浴槽等への付着防止剤として、」どの程度の分量からどの程度の分量までの範囲で配合すると「クロロフィルの浴槽への付着を完全に防正する」という本件特許発明の目的が達成できるのかが明細書に記載されていないから、発明の詳細な説明には、当業者が容易に本件特許発明を実施することができる程度に、その発明の目的、構成、効果が記載されていない旨主張している。

しかしながら、特許明細書中、銅クロロフィリンナトリウム0.12%とアニオン界面活性剤0.1、0.05、0.1、0.05%とを配合した浴用剤が第1表、第3表に、また当該浴用剤の使用によってはクロロフィルの浴槽への付着が認められないことが第2表、第4表に記載されているから、クロロフィルの浴槽への付着を完全に防止するために必要な銅クロロフィリンナトリウムの配合割合に対するアニオン界面活性剤等の割合について、特許明細書中に記載あるとするのが相当であって、これら記載をみれば当業者が容易に本件特許発明を実施しうることは明らかである。そうであってみれば、銅クロロフィリンナトリウムの配合割合に対するアニオン界面活性剤等の配合割合の範囲に関する記載がないことをもって、特許明細書の記載に不備があるとすることはできない。

したがって、請求人の主張は採用することができない。

なお、甲第9号証の3及び甲第9号証の4には、何らの技術的事項も記載されておらず、同号証はいずれも本件特許を無効とする理由を構成する証拠方法足りえない。

(4)むすび

したがって、請求人の主張する理由及び証拠方法によっては、本件特許を無効とすることはできない。

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